寒い時期は血圧が上がるのに注意!気温が低いときの過ごし方や注意点を医師が解説

監修者

【監修】谷田部 淳一

チーフメディカルディレクター・ 医師・医学博士

「寒い時期になると血圧が上がりやすいって本当?」
「どうすれば血圧の上昇を防げるの?」

気温が下がってくると夏よりも血圧が上がることを不安に思っている方もいるでしょう。寒い時期に血圧が上がるのはある程度仕方のないことですが、冬場は、血圧が上がりやすいので変動に注意しなければなりません。

今回は、血圧が上がりやすい寒い時期の過ごし方や注意点について解説します。

1.要注意!寒い時期は血圧が上がりやすい


「冬になると血圧が上がりやすい」「いつも通り降圧薬を飲んでいるのに寒い時期は血圧が上がってしまう」と相談を受けることが少なくありません。多くの方に経験がある通り、気温が低いと血圧は上がりやすくなります。

1-1.そもそも高血圧とは

日本高血圧学会では、次のように高血圧の基準を設けています。

診察室血圧

家庭血圧

基準

140/90 mmHg以上

135/85 mmHg以上

診察室で測定した血圧が140/90 mmHg以上の場合は高血圧です。高血圧は、血圧の値によって次の3つに分類されます。

診察室血圧

家庭血圧

Ⅰ度高血圧

140~159かつ/または90~99
mmHg

135~144かつ/または75~84 mmHg

Ⅱ度高血圧

160~179かつ/または100~109 mmHg

145~159かつ/または90~99 mmHg

Ⅲ度高血圧

180かつ/または110 mmHg以上

160かつ/または100 mmHg以上

なお、脳心血管病や慢性腎臓病などの疾患リスクや死亡リスクは、120/80 mmHgを超えて血圧が上昇するほど高くなるといわれているため、高血圧の基準に該当しない場合でも生活習慣の見直しが必要になります。

1-2.寒い時期に血圧が上がる原因

寒い時期に血圧が上がるのは、血管が収縮して血液の通り道が狭くなるためです。春から秋にかけては血圧がコントロールできているのに冬になると高くなる方は、気温の影響を受けている可能性が高いでしょう。

血圧が上がりやすい寒い時期は、心血管疾患による死亡率が上昇することが分かっています。また、中国で50万人を対象に行われた研究では、気温が10度低くなると収縮期血圧(上の血圧)が5.7 mmHg上昇することも明らかになりました。

2.血圧が上がるとどのような影響があるの?


高血圧になっても、自覚症状はほとんどありません。そのため、「血圧が高いとどのような影響があるの?」と疑問に思われている方も多くいます。

2-1.脳心血管病のリスクが高くなる

脳心血管病とは、脳梗塞や脳出血、心筋梗塞などの病気のことです。診察室血圧が120/80 mmHg未満の方で脳心血管死亡リスクがもっとも低く、130/85 mmHg以上になると有意にリスクが上昇することが分かっています。

久山町研究では、血圧が130/85 mmHg以上になると脳梗塞のうちとくにラクナ梗塞のリスクが高くなることも明らかになりました。

このほか、脳心血管病死亡の50%、脳卒中死亡の52%、冠動脈疾患死亡の59%が120/80 mmHgを超える血圧に関連しているとも報告されています。

2-2.慢性腎臓病のリスクが高くなる

高血圧は、慢性腎臓病や推算糸球体ろ過量、末期腎不全の発症リスクを上昇させます。沖縄で行われた研究では、収縮期血圧が10 mmHg上昇するごとに将来的に末期腎不全を発症するリスクが30%ほど高くなることが分かっています。

このほか、久山町で行われた研究では、中年期の高血圧が高年齢期の血管性認知症の発症リスクを上げることも明らかになりました。

3.寒い時期に血圧が上がりやすいシーン


寒い時期は、血圧が上がりやすいので注意が必要です。また、暖かい場所から寒い場所に移動すると、急激に血圧が上昇し体に負担をかけてしまうこともあります。

3-1.お風呂

急激な温度変化は、血圧が上がる原因です。寒い時期は、お風呂で温まった後に脱衣所で体が冷えると、血圧が変動しやすくなります。温度差を少しでもなくすために、小型のものでも構わないので脱衣所に暖房器具を設置して温度差を少なくしましょう。

3-2.トイレ

トイレには暖房がついていないことが多く、寒い時期は室内との温度差が大きくなりがちです。また、排尿中や排便中は血圧が上がります。このことから、トイレも血圧の変動が起こりやすい場所です。

3-3.雪かき

雪かきも血圧の変動を来しやすいので注意しましょう。外の気温が低く、さらに体を動かすことで血圧が上昇しやすくなります。重ね着をしてできるだけ室内との気温差が少なくなるようにしましょう。

4.寒い時期はヒートショックにも注意


寒い時期は、血圧の上昇だけでなくヒートショックにも気をつける必要があります。厚生労働省が公表している「令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況」によると、2023年に不慮の溺死および溺水で亡くなった方の数は8,982人にものぼります。

4-1.ヒートショックとは

ヒートショックとは、血圧が急激に乱高下することで脳出血や大動脈解離、心筋梗塞や脳梗塞などを起こすことです。温度差が出やすいお風呂でよく見られます。

暖房のきいた部屋から寒い浴室に移動すると血圧が上昇し、浴槽に入ると体が温まって血圧が下降しやすくなるのです。

4-2.ヒートショックの影響を受けやすい方の特徴

次に該当する方はヒートショックになりやすいので注意しましょう。

  • 65歳以上の方
  • 高血圧や糖尿病、動脈硬化がある方
  • 肥満や睡眠時無呼吸症候群、不整脈がある方
  • 浴室に暖房設備がない方
  • 熱いお風呂に好んで入る方

4-3.ヒートショックを予防する方法

ヒートショックを予防するには、3つのポイントを押さえることが大切です。まず、脱衣所や浴室内に暖房設備を設置して温めましょう。こうすることで温度変化を防ぐことができます。

お湯の温度を熱くしすぎないことも大切です。41度以上にするとヒートショックのリスクが高まるため、38~40度に設定しましょう。

お湯から出るときは、ゆっくり立ち上がることも心がけてください。急に立ち上がると、血液が脳まで届かずめまいや失神を起こすことがあります。

5.逆に夏は血圧が下がりやすい


血圧は季節によって変動します。寒い時期は上がりやすい一方で、暑い時期は下がりやすいことが知られています。

5-1.温かい時期は血圧が下がりやすい

夏は気温が高く、体温の上昇を防ぐために血管が拡張して血圧が下がりやすいことが特徴です。さらに、発汗も増えることから体内の塩分や水分が少なくなり血圧が下がります。

5-2.一時的に血圧が下がっても治療を継続することが大切

高血圧の治療をしている方が「夏になったら血圧が下がったから薬を飲むのを止めた」と自己判断で薬を止めてしまうケースがあります。血圧が下がったら薬も不要だと考えるのでしょう。

しかし、勝手に止めてしまうのは良くありません。暑い時期に血圧が下がりやすいのは季節的なものであり、高血圧そのものが完治したわけではないのです。

「血圧がいつもより低いけど薬はどうしたらいいの?」と疑問に思った場合は、服用をやめるのではなく、医師と相談して減薬したりそのまま様子を見たりするなど適切な判断をしてもらうことを徹底してください。

6.寒い時期でも血圧を上げないために気をつけたいこと


寒い時期に血圧が上がらないようにするためにも、日頃から血圧が下がりやすい生活習慣を心がけましょう。

  • 食塩の摂取量を1日6 g未満にする
  • 野菜や果物を積極的に摂り、飽和脂肪酸やコレステロールが多い食事は控える
  • 適正体重(BMI25未満)を維持する
  • 軽い強度の有酸素運動を毎日30分もしくは週に180分以上行う
  • 飲酒量を減らす
  • ストレスを溜め込まない
  • 暖房や冷房を適切に行い生活環境を快適にする

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8.まとめ


寒い時期は、体の熱を逃さないようにと血管が収縮するため、血圧が上がることがあります。血圧が上がると脳心血管病や慢性腎臓病のリスクが上がるため、適切にコントロールすることが大切です。

一方で、暑い時期は血圧が下がりやすくなります。血圧は季節によって変動しますが、自己判断で薬を止めたり調節したりせず医師に相談しましょう。

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